東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1146号 判決
新株の発行価額は、その決定時(すなわち、特段の定めのない限り、取締役会において新株の発行事項を決定する決議のなされた日)における、発行会社の株式の市場価格、企業の資産状態及び収益力(なお、これらは、通例、配当の状況によって端的に示される。)、株式市況の見透し等を総合したうえ、更に株式申込時までの株価変動の危険及び新株式発行により生ずる株式の需給関係の状況等をも考慮して決定さるべきものであって、発行価額がこのようにして決定された時、その価額は発行会社の有する企業の客観的価値を反映した公正かつ適正なものということができる。
そうして、発行会社の株式が上場されている場合には、株式市場で形成される価格、すなわち株価は、通常は、前記公正な発行価額を決定する諸要素のうちの中心をなす、企業の資産状況及び収益力等を反映しその客観的価値を示すものであるから、右資産状況及び収益力等のほか前記のような諸要素をも考慮に加えて決定される新株式の発行価額は、多くの場合価額決定当時の株価の一五パーセント減以内の価額となるべきものとし、この見地から、このような価額を以て公正ないし適正な発行価額と観念することは、理由のないことではない。しかし、株式市場も一の競争市場である以上、ここで形成される株価が常に企業の客観的価値のみに基づくとは限らず、時としては、企業の客観的価値以外の投機的思惑その他の人為的な要素によって、株価が企業の客観的価値を反映することなく異常に騰落することもあるのであるから、上場会社の新株の発行価額の決定に当たって、常に市場における株価だけを絶対視することは、ことの本質を見誤るものといわなければならない。控訴人は、本件において新株の価額決定の日の前日における株価をいわば絶対視し、その五ないし一五パーセント減の範囲内において定められた価額だけが公正、適正な価額であり、それ以外のものはすべて商法第二八〇条ノ一一にいう「著しく不公正な発行価額」である旨を強調し、この主張にそう資料として、当審において、さらに≪証拠≫を提出しているけれども、既に述べたとおり、新株の公正、適正な発行価額は、冒頭に挙げた諸要素を総合的に勘案のうえ決定されるべきものであることからすると、公正な発行価額を控訴人のように固定的に考えるべき理由はないものというべきであって、前掲甲号各証も控訴人の主張を肯認するに足るものではない。
(白石 川上 間中)